ヴァイオリン演奏に活きる古武術の身体操作:五嶋龍氏の立ち姿から学ぶ
ヴァイオリニストの五嶋龍氏が、近年音楽活動から一時的に距離を置き、ニューヨークで空手道場「日米武道館」を開設したことが話題となっています。 彼は5歳から空手を始め、日本空手協会と全米空手連盟の両認定3段を保持しています。 パンデミック中、自宅で空手の稽古を行う中で「これが一番やりたいことだ」と気づき、道場設立に至ったと語っています 。
五嶋氏のヴァイオリン演奏における立ち姿は、まさに古武術の身体操作を体現しているかのようです。 演奏前から安定感と安心感を醸し出すその姿勢は、武術における「戦う前に有利な状況を作り出す」戦略と通じるものがあります。 特に、曲調が変わる一瞬に見せる身体の「落ちる」動きは、古武術の「崩し」の技法を彷彿とさせます。
一般的な身体操作では、筋肉を収縮させて動かすことが常識とされていますが、古武術では筋肉を弛緩させて動かす独特の方法が取られます。 この弛緩から始まる動きは、演奏家にとっても親和性が高く、身体を固めることなく楽器を響かせることが可能となります。
例えば、古武術整体の実践では、腰が主体的に落ちることで、脚を使わずに直線的に重心を下げる技術が用いられます。 この動きは、関節を使った回転運動ではなく、地球に向かって真っ直ぐに落ちる技術であり、演奏中の身体の安定性や表現力に大きく寄与します。
https://youtube.com/clip/UgkxtPkPte8fUnFK_3DMFjFUHrW_svRupoZP?si=2LRAZJeHqMpDRw7h
五嶋氏の演奏動画を観察すると、彼の腰の落とし方が非常に洗練されており、演奏中に重力を感じさせない「ゼログラビティー」のような状態を作り出しています。 このような身体操作は、古武術の稽古を通じて身につけることができ、演奏家にとっても大きな武器となるでしょう。なぜなら、遮るものが何一つないから。
物理的空間に居る以上そんなことはあり得ませんが、あの一瞬ヴァイオリンを持つ手の圧力や弓の押さえつける力さえもが無くなるのです。いくら軽く持っても、いくら軽く弓を当てても物理的な圧や抵抗は生じるはずです。
でも、あの瞬間はそれらが「0」になったのです。
重力さえ無くなったあの時間、まるでブラックホールに引き込まれるかのごとく身体ごと吸い込まれます。
また、古武術整体のデータでは、演奏家が古武術の身体操作を取り入れることで、演奏中の疲労感の軽減や、音の響きの向上が報告されています。 特に、腰の落とし方や重心の移動に関する技術は、長時間の演奏でも身体に負担をかけず、安定したパフォーマンスを維持するのに役立ちます。
音楽と武道、一見異なる分野のように思えますが、身体操作や精神性において多くの共通点があります。 演奏家が古武術の身体操作を学ぶことで、演奏技術の向上だけでなく、自己の内面と向き合う機会を得ることができるでしょう。
五嶋龍氏のように、音楽と武道を融合させたアプローチは、これからの演奏家にとって新たな可能性を示してくれるはずです。 彼の道場「日米武道館」は、そんな新しい学びの場として、多くの演奏家にとって魅力的なスペースとなることでしょう。