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古武術体の力を抜く秘訣

重力とつながる脱力の技――動きを変える身体感覚とは

腰は「下げる」のではなく「落とす」― 表現を深める身体操作の第一歩

古武術では、腰を低く落とすことが稽古の基本とされています。

けれども大切なのは、「腰が低い」ことではなく、「腰が落ちている」こと。その違いを認識しないまま、見た目の姿勢だけで「落ちている」と勘違いしてしまうと、実際には落ちていないことがあります。どれだけ腰の位置を低くしても、それだけでは「腰が落ちている」ことにはなりません。

ここでいう「落ちる」とは――
たとえば「恋に落ちる」「試験に落ちる」といった使い方がありますが、今回は「支えを失い、重力に引かれてまっすぐ動くこと」に焦点を絞って考えてみましょう。

腰を落とすという動作も、重力に自然に従って、まっすぐ地球へと引かれるような身体のあり方でなければなりません。

…果たして、私たちはこのような単純なことができているでしょうか?


「下げる」と「落ちる」の違いが、身体の自由度を決める

腰を「下げる」ことと、「落とす」こと。この違いは一見すると些細ですが、芸術的表現を支える身体の操作としては、とても重要な分岐点になります。

小さな差異を軽視し、見た目の姿勢や大きな動きだけに意識を向けていると、本質的な要素が抜け落ちてしまう可能性があります。

しかし、その小さな違いに目を向け、突き詰めていくことで、動作の質や可能性に気づくようになります。


筋力で「構える」身体と、重力に「委ねる」身体

一般的に「腰を低く」と言うと、脚の関節を深く曲げて姿勢を作ることが多いのですが、その際には強い筋肉の収縮が必要になります。

スポーツ理論では、この筋収縮を高め、解放するときの反発力を利用して動きを出すことが主流です。しかし、このようなアプローチは、古武術的にはあまり推奨されません。

その理由は「出遅れる」からです。

武術において“出遅れ”は致命的です。(※先に動くことが不利になる世界観があります)

古武術の動きは、「剣」の動きを基準に構成されており、強い力よりも、いかに“早く届くか”を重視します。
力をため込んでから解放するような動きは、そのための“居着き”を生み、無駄な時間が発生してしまいます。

理想は、「動こう」と思った瞬間に、そのまま動くこと。
古武術では、この“思いと動きの一致”を目指して稽古が積み重ねられています。


脱力と重力が導く「表現する身体」

また、支えを外し、重力に身を委ねるようにまっすぐ動く――
この感覚も「ため」をつくらず、スッと動き出すことが求められます。

一方、一般的なスポーツの身体の使い方では、下肢の筋肉の緊張で腰を支えるため、どうしてもその筋緊張が動きを阻害し、「居着き」を生じさせてしまいます。

古武術では、下肢の筋肉ではなく、腸腰筋群(身体の深部にあるインナーマッスル)を使って、腰を落とします。
そして、できるだけその腸腰筋群すら緊張させずに動かしたいのです。

筋肉を緊張させると、身体は硬直し、動きが遅れ、重力に抗ってしまい、結果的に「腰が落ちる」状態から遠ざかってしまいます。

ここに、「筋肉を緊張させずに使う」という難しさがあります。


脱力は、身体の機能を止めることではない

「力を抜く=脱力」と単純に捉えると、身体の機能まで抜け落ちてしまいかねません。

脱力とは、単に“力まない”ことではなく、必要なときに、必要な分だけ、瞬時に動ける準備ができている状態を指します。

そのためには、筋肉に余計な緊張を与えず、重力と呼吸、そして意図と動きが滑らかに連動していることが大切です。

力を抜きながらも、身体を自由自在に操る――
それは、芸術的な表現の深みに通じる身体性の核心です。


表現の自由は、身体の自由から

「表現する身体」は、決して“作り込んだ姿勢”から生まれるものではありません。
重力に素直に従い、緊張から解き放たれた身体からこそ、動き・音・息・感情が自然と湧き上がってきます。

脱力とは、表現を削ぐものではなく、表現を開く鍵なのです。


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